2022年9月号室内装飾新聞『暮らすように過ごすロサンゼルスVol.2』

ホテルインテリアの多様性

今回はアメリカのインテリアデザイナー、ケリー・ウェアスラー(Kelly Wearstler)が手がけた2つのホテルをご紹介したい。彼女はホテルインテリアをメインに、家具や照明、ファッションまで幅広いデザイン活動を展開し、これまでに1920年創刊のアメリカの月刊誌「アーキテクチャ・ダイジェスト」で度々建築・インテリアデザイントップ100に選ばれている。さらに2022年には殿堂入りを果たすなど、いま世界から注目されるインテリアデザイナーの一人だ。彼女が語るホテルデザインに関する自身のスタイルは「ロマンティック」だというが、今回実際に過ごして感じたスタイルをどう表現すべきだろうか。心地よい空間であったことは間違いないが、所謂イメージされる言葉の枠に収まらないのが今のスタイルのようだ。

2019年にオープンした、サンタモニカのプロパーホテル(Proper Hotel)では、エントランスの大型うちわが印象的だった。空間全体に優しい白が使われ、天井にかけての曲線がゲストを包み込むような温かい空気感を醸し出している。ここにうちわの和紙と間接照明がフィットしたのだろう。壁装や家具など細かいところを見ていくと、自然素材が多用され、あらゆる角度から自然感が表現されていることが見てとれた。

とにかく空間全てに多種多様な植栽や家具が使われている。不揃いな世界観を細部まで追求したようなMIX空間。空間にも「多様性」というテーマが尊重されているような感覚に包まれ、そこに集う人々が思い思いにリラックスする様子とマッチしていた。

2021年にオープンした、ダウンタウンのプロパーホテルは、さらに有機的でボタニカルなインパクトがあった。ちなみに2022年のThe Best New Hotels in the Worldなど複数のアワードを受賞している。エントランスの壁面から天井にかけての手書きアートは、かなりダイナミックだ。元YMCAだったビルをリノベーションしたホテルと聞いたが、ペイントの色分けを上手く活用し、インパクトは演出しつつ、工事自体はローコストに仕上げる工夫も感じたられた。

こちらも不揃いをコンセプトに、自然な質感にこだわりピカピカしたものは置かれていない。あえてアクセントとしてプラスされているのは、マットなゴールド。このゴールド使いが結構素敵に効いている。
私が立ち寄ったのは平日にも関わらず、どちらも多くの人で賑わう人気のホテルだ。サービスの心地良さはもちろん、サンタモニカはスタッフの方の服装まで空間と馴染むようカラーコーディネートが徹底されている。また意外に外観はシンプルなつくりで、外側より中身(インテリア)に力点が置かれている感覚はLA住宅と共通する点のように感じた。
ケリー・ウェアスラーはアンティークディーラーの母の影響を受け、幼少期からフリーマーケットやオークションの経験が豊富だったようだ。不揃いなデザインを美しさにつなげるスタイルは、そんな独自の経験から生まれたのかもしれない。

2022年9月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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