2023年3月号室内装飾新聞『バイオフィリックインテリア』

バイオフィリックインテリア

いま、人間が本能的な欲求として自然とのつながりを求める「バイオフィリア」という概念のもと、「バイオフィリックデザイン」を取り入れる動きが広がっている。バイオフィリアとは「バイオ=生き物・自然」と「フィリア=愛好・趣味」を組み合わせた造語だ。具体的には、オフィスや都市空間等、豊かな自然と対極にある場所にグリーンや自然素材を取り入れるデザインである。そういう目で見てみると、街には自然と親和性のある素材、形、色を使った空間デザインが増えてきたことを実感する。広がりの根底にあるのは、科学的根拠が示す理由と目的があるからだ。例えばオフィスの場合、メンタルケアや生産性向上という目的のもとに取り入れる、といった具合だ。いまやグリーンや自然素材も、単なる彩りだけではない時代にある。

さらに興味深いのは、住宅のインテリアにもその動きが広がっていることだ。ある論文ではインテリア空間のあり方と、慢性疼痛、片頭痛、うつ病などとの関連性が示されていることからも、コロナ禍で浮彫になった課題にインテリアが役立つ可能性は大きい。

インテリアデザインを疾病の症状緩和や予防、健康維持に役立てる視点が世界で科学的に証明されつつある動きは、私が提唱する「アクティブ・ケア」の概念に合致する。最近主宰する協会に、看護師や保健師など医療従事者から熱いメッセージをいただくことが増えた。「大好きなインテリアを、仕事である医療に役立てられると思うと、ワクワクする!」と。インテリアは魅せるだけでなく、まさに大きな力を合わせ持っている。

山や海など自然に囲まれる環境に身を置き、旅することで心が癒されたり、リフレッシュしたりする感覚を多くの人が体感しているだろう。以前、TV番組の仕事で日本最南端の島、波照間島に行ったときに「ここには心身を癒しに訪れる方が多いのですよ」と現地の方から伺った。青く澄んだ海、自然のままの砂利道の通りには、風通しのよい赤瓦の家が並び、コンビニもない。島に一歩入ると、どこにいても自然に包まれることは間違いなく、本能的に人を強く惹きつける環境に溢れていた、と思う。

バイオフィリックインテリアは、人間の本能を刺激し、暮らしにメリットをもたらす。いま私たちが目の前にする日本のインテリア素材は機能性も高い。これらを活かし空間を作り上げれば、どんなに素晴らしいだろう。インテリアデコレーターとして心躍る世界の動きに、私自身が一番ワクワクを感じているかもしれない。

●ご挨拶
この度3月号をもって、連載を終了させていただくことになりました。これまで長らくお付き合いいただいた皆さま、本当に有難うございました。現場が何より好きな気持ちはこれからも変わりません。好きだからこそ、これまでの経験やインテリアの重要性をより多くの方にお伝えしたく、4月から公衆衛生大学院の博士課程でさらなる研究に取り組みます。インテリアデコレーターとして私らしく、いただいたチャンスに精一杯向き合うつもりです。末筆ながら、心からの感謝と、皆さまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます。尾田恵

2023年3月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回

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