2021年9月号室内装飾新聞『グローカル・インテリア』

グローカル・インテリア

グローバルではなく「グローカル」。

物事を実際に動かしていくためにとても大切な視点だ、とある教授から聞いた言葉だ。医師であるその方の活動は国内外幅広く、まさにグローバルな人である。さらに日本の医学の最高峰で学ばれた方でもある。私がその教授の言葉にいつも感銘を受けるのは何故か。それはグローバルな視点で学んだ知識を、ローカルな現場に届けるために、実際に行動している人だからだ。感染症に関して世界中の論文・ニュースに目を通し、常に正しい情報を得て知識をアップデートする。またそれらを発信し続ける。そして自身が地方に赴き現場の医師としてワクチン接種も担当する。ご自身こそ、グローカルな人であるからこそ、説得力のある言葉が私の心にもガツンと響いた。

グローカル(Glocal)とは、世界規模(グローバル)の視野を持ちながら、地域(ローカル)の視点で課題に貢献することを意味する造語。主にビジネス用語として使われてきた言葉だが、私はインテリアにもつながる言葉であり、今後必要かつ重要な視点であると考えている。

過去に何度も通った国際家具見本市、ミラノサローネ。トレンドをいち早く掴もうと、広大な会場を歩き回り世界のインテリアを吸収した。情報が溢れる中、現地で私が意識していたのは、「日本にフィットするものはどれか?」ということ。確かにインパクトが強く、写真映えする家具やカラーは、目を惹く存在ではあったが、だからと言って日本に馴染むかといえばそうとも言えない。トレンドにも取捨選択の目、ローカルな視点なしに本当に必要な情報には辿りつけないように感じていた。そのため私は自分なりに「日本の空間に応用できるもの」という視点でトレンドを切り取り、頭の中に入れ持ち帰るということを続けてきた。

世界のトレンド(グローバル)から学ぶ知識をもとに、日本(ローカル)のインテリアで実践する。ローカルな現場で実践出来なければ、グローバルな視点も意味をなさない。繰り返しになるが、実際に物事を動かすには「グローカルな視点」が大切なのだ。

自宅での自粛生活が長引くが、悩みの中身は世界をひとくくりには出来ない。何故なら、海外と日本では住空間に大きな違いがあるからだ。例えば、一人当たりの住宅床面積を世界規模で見てみるとアメリカでは61.2㎡、日本の首都圏では35.3㎡、さらに首都圏の借家では25.4㎡というデータがある。(引用|国土交通省 令和2年度住宅経済関連データ)床面積だけではない。天井高さによるスケール感の違いもある。こうして住空間の違いをみても、日本にはローカルな「悩み」が存在することが想像できる。

ニューノーマルな社会に向かって必要とされるのは、日本の課題に貢献できる「グローカル・インテリア」。改めて足元を見直すと、さまざまな解決策の種が見つかるように感じている。

2021年9月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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