2022年3月号室内装飾新聞『すっぴんインテリア』

すっぴんインテリア

2022年もあっという間に3月になった。気がつくと、春が近い。在宅テレワークが定番となった日々によって、以前より時間が多少ゆっくり流れた分、自分の心に向き合う時間も増えた。心が赴く方向に想いを馳せると「いま」を感じることができるような気がしている。

「すっぴん。」あるブログで、自然と触れ合う鎌倉暮らしについて語られたなかにあった言葉が気になった。調べると「すっぴん」は『素嬪』と書き、本来は化粧をしなくても美人という意味であったようだ。飾らず、素のまま、ありのまま、自然のままみせることが素敵といった意味合いの「すっぴん」は、本質的な価値を大事にする暮らしや、いまのインテリアにもフィットするように感じる。デコラティブよりナチュラル志向。素材感も色もコーディネートにも、そんな傾向がみえる。

個を重要視する多様な社会、郊外への移住が増えることやテレワークが定着する社会も、全ては心がよろこぶ、ありのままの暮らしを優先し、選択する人が増えているからではないだろうか。本来、インテリアは誰かに自慢したり、見せるためだけのものではないはずだ。プライベート空間より、来客用のリビング&ダイニングにこだわっていた感覚も、明らかに変わってきた。これからの住まいは、他人の目より自分の“心”を大事にする場所であるべきだ。だからこそ、いまの私には「すっぴんな暮らしにフィットするインテリア」が何より素敵に見えている。

そう思うと、一昨年まで毎年LA住宅視察に通っていた理由もつながった。オーナーたちの想いから生まれた「すっぴんの魅力」にハマってしまったのだ。使い込まれたキッチンの美しさ、全身を優しく包み込むようなカラースキーム、生活感とデザインの絶妙なバランスなど・・・「自分の心がよろこぶこと」にとことんこだわったオーナーとインテリアは、“心”に正直になることの大切さを私に教えてくれた。

住まいの役割は、今後ますます大きくなってくる。好き、楽しいと感じる心が、健康状態や身体機能にも影響を与えることが知られていることからも、心をすっぴんに開放する住まい(=インテリア)は、誰にとっても大切な場所になることは間違いない。

2022年3月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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