「プレゼンティーイズム」へのアプローチ
4月は新しい環境を迎える人が多い季節だ。さまざまな変化をいち早く自分にフィットさせ、パフォーマンスを高めて臨みたいという思いは、誰にも共通するのではないだろうか。いまは働き方の選択肢が多様である。テレワークや副業、ギグワーカーとして自由な時間軸の中で働く人も増えている。フリーランスのスキル仲介を手がける「ココナラ」が東証マザーズに上場したのはつい先日のこと。新しい働き方の象徴ともいえる「スキルシェア」市場は、2030年には最大2兆6千億円になる試算もある。個人スキルを発揮する市場と、働き方への新しい意識は整いつつある。
一方、新しい働き方にはスキルを最大限に発揮することが求められる。しかし現実は「プレゼンティーイズム(疾病就業)」が多く、従業員の健康関連コストの多くを占める要因となっているというのだ。意外かもしれないが、医療費や病欠より圧倒的に高いコスト比率がデータで示されている。(平成29年厚生労働省保健局「コラボヘルスガイドライン」より)またこれまでの定義は「病気をもちながら“出勤”している状態」であった。しかし、在宅勤務の増加など働く場所が自由になった今後は、定義も「病気を持ちながら“勤務”している状態」に移り変わるようだ。
この話題は、インテリアがつくる生活環境と密接であると感じている。さらにいうと、この経済学的課題の改善にインテリアが役立つ可能性は大きいと思う。なぜなら私が取り組む片頭痛や睡眠ケアは、プレゼンティーイズムと関係が深いとされているからだ。そのほかの要因として挙げられる、アレルギーや腰痛もインテリアと関連すると考えられる。つまり、いま企業が注目する「プレゼンティーイズムの改善」に深く関与するのが、生活環境をつくるインテリア、といえるのだ。
片頭痛が日本に与える経済損失は約2880億円という試算(日本頭痛学会「京都頭痛宣言」)もあるように、いま取り組むべき健康課題を数字は明らかに物語っている。そして歴史的に研究が進められてきた「アブセンティーイズム(欠勤)」に比べ、プレゼンティーイズムは新たな研究分野として期待されている。
片頭痛ケアには、内装材のコントラストや光反射、照明の色と明るさを和らげることが好ましい。質の高い睡眠には、スムーズな入眠を促すための内装と照明の仕掛けを、寝室だけでなく、リビングやトイレに至るまで配慮することをおすすめしたい。リラックスには家具の影響も大きい。体調を整えるために必要な空間に、インテリアの力が発揮される場面は多いはずだ。
誰もが最大限の力を発揮できる社会には、生活環境のあり方が重要な鍵を握っている。新しい時代の中でインテリアが果たす役割、アプローチの対象は広がっている。
2021年4月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中