普遍的なミッション
紫陽花の季節を経て、夏が近づいている。私の住む鎌倉には、あじさい寺として有名な長谷寺や明月院がある。また住んでみてわかったが、近所を散歩するだけでも紫陽花が十分楽しめる。雨に濡れた新緑とブルーのコントラストは本当に美しかった。紫陽花は、土質によって咲く花の色が変わる。酸性の場合は青色系、アルカリ性や中性だと赤色系になる。雨が多い日本の土壌は酸性であることが多く、鮮やかな青色系が楽しめる土地柄だ。同じ時期にLA在住の友人が送ってくれた紫陽花は、淡いピンク色。違いはあるけれど、それぞれの場所に花色が似合っている。街並と土壌と花の色。自然にある調和のメカニズムはよく出来ていると感じた。
インテリアも同じように思う。先程のつながりを置き換えるなら、街並と空間とインテリア。単体で考えるより、周囲との調和がある方がしっくりくる。内装を決めるときもそう。白壁紙は、空間によって似合う白が違う。光や他の内装材との相性はもちろん、屋外から入って感じる印象まで、白選びには調和の視点が完成度を左右する。市場にはそれを叶えるだけのラインナップがあるのだから、白をひとくくりにするのはもったいないとさえ思う。
リフォーム番組の仕事で、沖縄の離島から関東エリアまで、様々な土地に伺った。そこでは常に地域との調和を第一に考えた。その土地、その家、その家族に似合うスタイリングが私に与えられたミッションだったからだ。古民家を華やかにみせる色選びにこだわり、小物は地元で調達することが多かった。また庭に無造作に転がる瓦をキレイに洗い、花器として使ったことや、路地に咲く野花を食卓にアレンジしたこともあった。インテリアコーディネートは、モノとモノとの調和を考えるだけではなく、俯瞰する視点が必要だ。これは、街並~空間の流れのなかで、最高の調和を見つけ出すことが、インテリアにとっての普遍的なミッションだという考えにもつながっている。
これからは個性や多様性が求められる時代である。インテリアがもつ調和の力は個を活かす技術だ。いま、その役割が増していく流れを感じている。
2021年7月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中