リモート時代の「壁インテリア」
今、外出自粛によりテレワーク導入が進むなか、私たちの暮らしの中にさまざまな「リモート○○」が増えてきた。リモート会議、リモート授業、リモート飲み会に始まり、テレビではコメンテーターが自宅からリモート出演する放送も、もはや一般的になりつつある。この動向によって「住まい」に変化が起こっていることにお気づきだろうか。それは、「見せてもいい壁」の必要性が生じているのだ。映し出されるリモート放送の画面を見ていると、職業柄、私はその「背景」がどうしても気になってしまう。
あるベテランキャスターは、毎朝自宅の本棚を背景に出演されている。左右まだまだ横幅がありそうな本棚から書斎のスケール感が伺われ、さらにはさすが勉強家?多趣味?など、その方の背景にある「知性」まで想像できる。また、あるドラマの出演者がグループでリモート出演していた際には、画面の中の人気若手俳優の背景にさりげなく飾られたセンスのいいアートの存在に、思わず惹きつけられた。壁との間に、ある程度の距離感もあり、きっと広くてセンスのある家に違いない、さすがは人気俳優!想像は膨らんだ。限られた画角のたった一面の「壁」が、なぜ突出して印象に残ったか?それは、テレビ画面にマルチに並んだその他の出演者の自宅の背景が、全て「白壁」だったからである。急速なリモート時代を迎え、改めて日本の住まいの現状を感じている。
日本では、白壁がそのまま手つかずの場合が多い。それに比べ、欧米では必ず多数のアートや家族写真が壁面を覆っている。また塗装や壁紙によって壁面の色もパターンも豊富である。実際、過去50軒以上のロサンゼルスの住宅視察において、1軒として白壁だけの空間はなかった、というのが実状だ。
残念ながら日本ではアートを飾ることは難しい、と考えられている方が多い。もし飾って失敗するぐらいなら、飾らない方が無難、とおっしゃる方もいる。ただ、実は飾り方には「黄金比」というルールがあり、それを知るだけで、難しかったアートの世界はグッと身近になる。壁紙も同じように思う。印象的なカラーやパターンの壁紙を貼って失敗するぐらいなら、白壁の方が無難。しかしリモート時代になり、これからの住まいにおける「壁」の存在価値は変わると感じている。
例えば、書斎やリビングにPCがあるとして、今までPCにむかう自分の背景や壁にこだわる人はいただろうか。でも、これからは違う。「見せてもいい壁」や「見せたくなる壁」が欲しい人も増えそうだ。「壁」を収納として考えるなら、中身の見えないスッキリとした扉付き収納が欲しい方、他の家と明らかに差が出る、センスと個性が光るこだわりの「壁」が欲しい方もいると思う。住まいを借りるときには、素敵な「壁」があることが決め手になるかもしれない。今後、暮らしの中にさまざまなリモートが広がるに従って、「壁」は住まいの価値判断において重要な役割を担いそうである。そこには、リモート時代ならではの新しいインテリアの可能性が広がると予感している。
2020年5月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中