心に響く、デザインの力
9月、日本健康科学学会第35回学術大会に登壇させていただいた。医学系学会の2019年大会テーマは「アート・デザインと健康」。私がデザイナーの立場から「インテリアと医療」に取り組む活動を知って下さった理事の方からのご依頼だった。高齢者施設における音楽療法やアートセラピーへの取り組みなど、様々な活動が紹介される中で、私は「インテリアの力×医療」について、実例を交えてお話させていただいた。
私は、これからの健康、医療分野に「環境の力」は新たな役割を担うと考えている。今まで“健康”と言えば「生活習慣」の改善が挙げられてきたが、これからは「生活環境」が“健康”を支える一役を担うと思う。ストレスを減らし、食事を美味しく摂り、良く眠る。健康に良いとされる日常のために「生活環境」の役割は重要で、そのための内装、照明、家具などそれぞれの選択は何でもよいはずもなく、より良い選択の先にある「最高の空間=人の健康に役立つ空間」につながると考えている。
昨年、私はある高齢者施設で、入居後から約1年半、壁のスイッチカバーを取り続けるという認知症の方と出会った。その方にとってはカバーが邪魔なのか、ストレスの原因になっているのか・・理由はわからなかったが、スタッフの方によると何度付けても、取り続けるというお話だった。取れないようにする方法はある。しかしそうすれば、きっとご自身の手を傷つけてしまわれることは想像がついた。デザイン(見せ方)の力で何とかできないか・・そんな想いでその方を観察すると、あるアイデアを思いついた。
「カバーを大好きな“猫”にとっての大切な場所に変える(見せる)」その日から約1年、今もカバーと猫はそのままだ。デザインが心に響く時、インテリアに新たな可能性が見えてくる。