2022年7月号室内装飾新聞『KINTSUGIの魅力』

6月に日本橋三越本店で開催されたロエベ展。ロエベ(LOEWE)は皮革製品で知られる歴史あるスペインのブランドだが、今年の国際家具見本市「ミラノ・サローネ2022」に出展された作品は、日本の“金継ぎ”にインスパイアされ誕生したという。金継ぎは、陶磁器の欠けや割れを漆でつなげて修復する、日本独自の文化伝統技術。室町時代に茶の湯が盛んになると、修復した器を「金」で装飾するようになり、「金継ぎ」として広まった。近年は「KINTSUGI」として、海外からの注目も集めているが、ロエベはその修復技術を「レザー」で応用し、新しいプロダクトとして生み出していたのだ。使い込まれたバスケットもカラフルなレザーが加わることで、全く新しいデザインとして生まれ変わる。古きものを慈しみ、大切に使い続けるための日本の伝統技術とサステナビリティ。金継ぎは、単に欠けや割れを補うものではなく、新たな命を吹き込む技術だというメッセージを、プロダクトを通して感じる展示だった。

私がこれまでにミラノ・サローネを視察した際にも、日本のアイテムがディスプレイされていることは多かった。着物、鉄瓶、盆栽、赤く色づいた紅葉などが海外のインテリアと融合する展示は、日本人としてとても嬉しく、とても魅力的だった。サステナブルや個性が重要視されるいま、金継ぎはさらにアートな魅力と可能性を秘めている。日本の技術が、世界中のデザイナーに与える影響は、これからも大きくなるのではないだろうか。

実は器好きの私も金継ぎの世界に魅了され、その工程を体験させていただいた。丁寧に慎重に器と向き合うひとときは、たっぷり2時間。いまは新しい魅力で蘇った器と心地よい時間を過ごしている。体験してわかったのは、その作業工程にも魅力があること。最近は料理なら時短より手間のかかる料理が、珈琲なら豆を挽きハンドドリップで味わう人も増えたとか。コロナ禍で働き方も変わり、暮らしにおいて時間と丁寧に向き合うことを大切にしたい人が増えている。金継ぎは、いま求められる多くの価値観にフィットしているからこそ、世界を魅了するのかもしれない。

2022年7月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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