2022年6月号室内装飾新聞『鎌倉暮らしに学ぶこと』

鎌倉駅から徒歩約20分、西御門の住宅街に小説家里見弴(さとみとん)の元自邸がある。戦時中は米軍将校の住まいとして、戦後はホテルとしても使われていたのだが、現在は建築事務所が管理し「西御門サローネ」として週に一度一般公開されている。

作家である里見氏自身が設計したというこの家は、日本建築を洋風にアレンジしたスタイルで、一言でいうと「ストレスのない家」だとか。見た目は洋風でも、続き間が連続する日本建築のような間取り、視線への配慮、回遊動線の多用など、住んでいてとても使い勝手がいいらしい。感染症が流行った頃、療養所があった土地柄もあり、とにかく換気が良い家であることも特徴だと聞いた。文豪が設計したストレスのない住まい。自分らしい心地よさを追及したらこうなった、という作家ならではの想いから、いまに通じる教えを感じている。

さらに、鎌倉には個人店が多いのだが、営業スタイルにこだわりを持つ「個性ある店」が多いことも暮らしてからわかったことだ。あえて開店は週3日という店も珍しい存在ではないし、オープンは月1回、あとは予約のみという骨董店もある。雨なら休む、これもある店のオーナーの個性的なスタイルだ。品質を保つため、家族やプライベートを優先するために、独自のスタイルを決め、こだわりの味や商品を提供する。他にはないスタイルであっても、「個(自分)」を優先する人が多いことに、とても刺激を受けている。

住まいを考えるとき、自分の居場所だからこそ「個」を大切にして欲しいと思う。最近特に感じるのは、インテリアは「個性」を具現化することこそ、重要な役割だということだ。一般的、無難だから、という理由で選んではもったいない、と心から思う。リビングであってもソファはなくてよいし、大胆で個性的なアクセント天井があってもいい。そのために、天井面には一切照明をつけなくてもよい手法がある。

これから社会は、益々多様になっていく。インテリアがつくる「個性ある空間」は、人やモノ、そして街全体を面白く、心地よい場所にする役割を担うと感じている。

2022年6月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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