垣根をなくすことで見えたもの
春から公衆衛生大学院生となった私の環境は、随分変わったように思う。まず同級生の年齢層は幅広く、娘より若い留学生の友人もできた。難しい試験の前には、ともに励まし合って取り組むこともある。そこに年齢や国という壁は既になく、同じ目標に向かう友という新たな価値観が、日々の私の視野を大きく変えてくれている。垣根は年齢や国だけではない。今まで、インテリアは別世界だと感じてきた、という人との出会いも多くなった。インテリアは生活環境であり、誰にとっても身近な存在であるはずなのだが、スッと心に届かないときがある。そんなときは相手が理解しやすい言葉に置き換えている。医療関係者が多い学会や研修会では、私の職業を「インテリア専門職」と表現する。その結果「インテリアは新しい切り口だ」と興味深く聞いていただけたおかげもあって、学会では「特別賞」を受賞させていただいた。インテリアの本質を理解いただくためなら、私はこれからも「わかりやすい表現」を選んでいきたいと思う。
そう考えると、住宅、オフィス、店舗、医療福祉、というようなジャンル別の扱いも、今後は垣根なく扱われた方が自然だと感じる。これは、コロナ禍で急速にテレワークが普及し、住宅とオフィス空間は共存する時代となったことが大きい。在宅環境にオフィスとしての機能が必要となってきたことで、これまでオフィス用と考えられてきた商材が住宅で重宝する場面は多いのではないだろうか。キャスターチェアと相性のよい床や、メモ代わりに使える壁など、もはや垣根をなくす方が、テレワーク時代の賢い選択の視点に思える。
また医療・福祉施設にも、遊び心やリラックスなど垣根のない視点があってもいい。店舗用と考えられてきた斬新な色や素材が使われても良いし、触覚に働きかける素材の優しさが心身に安心感をもたらす可能性もある。医療というと、耐薬品性やメンテナンスなどの機能性に目が向きがちだが、インテリアは、心のケアにも役立つ大きな力をもっている。実は先月、新たな取り組みとして、医療従事者を対象にインテリア知識を伝えるための「TERAKOYA(寺子屋)インテリア健康学」というセミナーを実施した。インテリア商材に直接触れてもらうショールームでの体験型も取り入れたのだが、参加の方々の予想以上の好反応に驚いた。まだまだインテリアを伝えるべき先がある、と実感した。
私は垣根をなくすことから、インテリアの新たな世界が見えてきた。2022年も、垣根のない出会いを楽しみたいと思う。
2021年12月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中