2021年10月号室内装飾新聞『壁紙と健康』

壁紙と健康

数ヶ月前、ある雑誌から「壁紙と健康」を切り口に特集を組みたいとお話をいただいた。私が取り組む、人を健康に導くインテリア「Active Care®(アクティブ・ケア)」による計画には、壁紙選びはとても重要で、色柄はもちろん、機能性や質感も大事なポイントとなる。健康との関係はぜひ多くの方に知っていただきたくて、即答でOKの返事をさせていただいた。

一般の方が「壁紙と健康」と聞くと、まず思い浮かべられるのは、ホルムアルデヒドなどの化学物質に関連する話題、ではないだろうか。または、消臭や吸放湿などの機能から空気環境を整える、というイメージがあるかもしれない。しかし、私が考える「壁紙と健康」は少し切り口が違う。豊富なバリエーションの中から、“刺激”を和らげるという視点によって、色や素材を選び、機能も活用する。つまり、本来壁紙がもつ色柄といったデザイン力も含め「健康」のために利用しよう、というものである。

では、空間の中の“刺激”が和らぐと、どのようなメリットがあるのだろうか。メリットをもたらす可能性のひとつとして注目しているのが、片頭痛症状の緩和である。これまでの調査や事例から、壁紙が白からブラウンに変わったことで、頭痛が随分楽になったという方がいる。ここには照明(光)の役割も大きいのだが、同時に壁紙の役割は大きい。色柄は好みの問題、と考えられている方は多いが、それだけではない。健康というもうひとつの視点を加味して選ぶと、もたらすメリットはさらに大きくなる。

例えば、壁紙で片頭痛ケアを試みた場合、ご本人が楽になることはもちろん、企業にもメリットをもたらす可能性がある。4月号でもご紹介した通り、片頭痛はプレゼンティーイズム(健康問題をもちながら勤務している状態)の要因であり、生産性の低下を招くとされる疾患だ。健康経営が求められる企業にとっては、片頭痛対策をおろそかにすることによる機会損失はかなり大きいと言える。そう考えると、これからの時代は、オフィスもテレワーク空間(自宅)も、壁紙による健康経営へのアプローチ、という可能性が見えてくる。

9月、日本健康教育学会で発表した演題が「特別賞」を受賞した。テーマは、インテリア×健康×テレワーク。増加するテレワーク不調に、新たなアプロ―チとなる解決策を提言したものだった。研究者の方々にも、インテリアが健康のために役立つ可能性について評価いただけたことは、本当に嬉しかった。

壁紙がもつデザイン力には、まだまだ知られていない顔がある。今求められるニーズをキャッチするためにも、「健康」を深堀するメリットはありそうだ。

2021年10月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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