2021年2月号室内装飾新聞『アナログの魅力』

アナログの魅力

新年を迎えてから1か月が経った。例年のような新旧のメリハリを感じにくい変わり目だったが、2021年もさまざまな「価値観の変化」を受け入れつつ、月日は流れていくのだろう。新しい生活様式、ニューノーマル、テレワークにワーケーションなど、時代の言葉は変革や新しさを象徴するが、そこに伴う行動やスタイルは決して新しさだけではない。「アナログ」を感じるのだ。ここでいう「アナログ」は、便利とか時短とかが価値とされる世界とは逆の暮らし方。多少不便でも昔からずっと変わらないスタイルだったり、手はかかっても「古きよき暮らし」を味わう「レトロ」と意味合いが近い。忙しさに追われた毎日とは距離を置き、日々の時間を丁寧に味わう。移住や副業もOKとされる世の中では、居場所も時間の使い方も自由に選ぶ人が増える。これからの新しい時間価値には、アナログがフィットするのかもしれない。

新年のある紙面で紹介された、ニューヨークのレストランでの一枚の写真。それは日本の冬のインテリア「掘りごたつ」。アウトドア席で食事を楽しむ人々が、笑顔でこたつに入っていた。ニューヨークでこたつ??なんだか不思議な光景だったが、コロナ禍で快適なこたつ席は、週末には1~2カ月先まで予約で埋まっているそうだ。換気のいい屋外で暖を取り、食事を楽しむ。屋外でなくても換気のため開放するレストランでは、こたつは重宝するらしい。足元をしっかり暖めるが、空気は汚さない。なるほど!古きよきエコな日本文化を改めて見直した。そう考えると、換気を徹底した環境での「こたつミーティング」は、ありかもしれない。イノベーション時代のこたつ席。新旧コラボは意外な可能性が生まれそうで面白い。

炊飯器ではなく土鍋でご飯を炊く。新聞や本は紙で読む。ここのところスローに近づいた日々には、アナログがちょうどいい。メールではなく手紙を書く。つながりが難しい時代だからこそ、手書きは心を暖める。私の場合、カーテンの開閉が、テレワーク生活のリズムを支えている。一日のスタートに朝陽を浴びるという暮らしのスイッチ。ちなみに隣家の方は雨戸を毎日開閉されている。心を穏やかにするアナログ行動はいろいろある。最近人気のDIYも、キャンプや焚き火も、通じるものがあるのではないだろうか。

今年は新しい言葉に振り回されることなく、身近にある大事なものにも気づきたい。新しい価値観は、意外に傍にありそうな気がしている。

2021年2月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

室内装飾新聞202102月号

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