移住の強い味方
この秋、私は鎌倉に移住した。移住、というほど心の中にハードルはなかったが、コロナ禍で「地方への移住」がトレンドといわれる今、あえて「移住」といってみた。正直なところ、終の棲家となるかはまだわからない。
ただ、今の自分にとって大切なもの、必要としているものがこの場所にあるように感じて、暮らす場所を変えてみるという選択をした。これまでの私にとっての住まい選びは、ある意味「さまざまな住環境の実体験」のためにあったように思う。幼少期を過ごしたのは、第二次世界大戦を乗り越えてきた古い平屋の住宅で、掘りこたつと石油ストーブで暖をとった。襖で仕切られた気密性のない環境はストーブがあっても、とにかく冬の寒さが厳しかった。大人になってから、マンションに引越ししたときは、その暖かさに驚いた。服装から行動まで、同じ地域であっても、住環境が違うと冬は全く別ものになるのだと実感した。それからも築年数の違うマンションや戸建、インテリア雑誌で建築家の作品として紹介されていた物件にも住んでみた。さまざまな住環境に住んでみる、という実体験で得たことは、それぞれの環境に適したインテリアは全て違う、ということである。
インテリアはトレンドやデザインだけではない、という視点のルーツはここにある。空間を素敵に魅せるという役割と同時に、私たちの快適な生活環境をサポートする、ということも、インテリアの重要な役割だ。住環境に悩みがあれば、インテリアが解決策となり得る場合がある。生活環境改善のために「インテリアの力」は大きい。
例えば、カーテンは選ぶ生地、ヒダの取り方によって室内の温熱環境が変わる。寒さが厳しい戸建住宅なら、厚地のドレープカーテンを選びたい。できれば暖かさのためには布地の多いスタイルを選ぶ。フラットではなくヒダをとって。一方レースの選び方は、窓のある方角も関係するが、もし外の景色がいいなら、ガラス窓と馴染む色で透け感のあるタイプもいい。レース越しに景色が見え、閉鎖的にならない。以前眺望のよいタワーマンションのお客様に、グレー系の透け感のある遮熱レースをご提案して、とても喜ばれた。それまでの透け感の少ない白いレースでは、開けるか閉めるかしかなかった、とのことだった。逆に隣家が近い環境なら、外からの視線を遮りつつ、明るさを取り入れる商品を選びたい。視線を気にせず落ち着ける環境をつくることは、テレワークにも必要な要素となる。窓まわりだけでも、環境を考えたベストな答えは、同じではない。
今、地方への移住をはじめ、戸建住宅の人気、空き家再生への動きも活発だ。観光以上移住未満の「関係人口」という考え方も広がり、ますます地方は身近になっている。従来の住まいの価値基準が大きく揺らぐ中で、空間の長所を活かすため、また足りないものを補うためにインテリアが担える役割がある。
私が移り住んだ鎌倉の家には、昭和レトロが残っている。そのリアルな「古さ」が決め手になった。戸建ての冬の寒さは重々承知しているが、今回はインテリアで補うつもりである。インテリアが強い味方になることがわかっているので、暮らしの選択肢が増えた。カーテン、照明、家具、グリーンなど、これからじっくりと快適な暮らしの土台づくりを楽しもうと思う。
2020年12月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中