「行動変容と空間の役割」
「インテリアや空間は人の行動パターンを変え、意識も変える。」 私の経験からの実感である。ヘルスケアや人材育成の場で、人が改善のために新しい行動を身につけることを「行動変容」と言うが、行動を変える動機づけのために、空間の役割は大きいと感じている。今までの経験を振り返ると、特に一般家庭では微笑ましい“行動変容”エピソードが多い。あるご家庭では、ダイニング&キッチンをリフォームしたことで、夫婦で家飲みするようになりコミュニケーションが増えたと嬉しそうに話されていた奥様が印象的だった。ある男性はLDを変えたことで飲むお酒が変わり、キッチンに立ち料理もするようになったとご自身の意外な一面を語ってくれた。それまでほぼ外食だと伺っていたので、私もかなり驚いたことを記憶している。その他にも寝るだけだった自宅に、友人を招き料理を振る舞うようになった男性。照明環境を変え、朝陽を浴びるダイニングが出来たことによって完全夜型だった方が一変、朝型に変わった方もいる。空間が変わることで有意義な時間、コミュニケーションは増え、生活リズムが整うことで健康にも近づく。環境の力は本当に大きいと思う。
先日、ある福祉施設から職員用スペースのリニューアルのお話をいただき、ここにも行動変容の仕掛けを盛り込みたいと考えた。休憩時間を過ごす空間に、適度な太陽光を浴びていただくテラス席を作る、という仕掛けである。太陽光には日中に分泌されるべきホルモンや、体内時計を調節する神経伝達物質の生成を促す力があると言われ、オフィスを対象とした最近の研究では窓のある環境とない環境で自然光を浴びる量の違いから、窓がない環境の方が睡眠時間は短い、という結果も報告されている。そこで福祉施設であまり活用されていなかった屋外スペースに落ち着いて座れるベンチを設置、座れば自然に太陽光に近づくという場所を設けたのだ。テラスには多くのグリーンも設置したので、潤いのあるリフレッシュ空間に生まれ変わったのだが、実は一番の目的は、職員の方に太陽光に近づき健康になって欲しいという想い。日々の行動が変わるきっかけになってくれることを願っている。
カフェのようなキッチン、家族全員がくつろげる広々リビング、オフィスのリフレッシュ空間。素敵な空間の先にある本当の目的を想像すると、行動変容から人が喜ぶ空間づくりに近づくように感じている。
2018年8月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中