2021年5月号室内装飾新聞『公衆衛生とインテリア』

公衆衛生とインテリア

今、私は大学院で公衆衛生を学んでいる。公衆衛生って何?何を学ぶの?とピンとこない方が多いかもしれない。「今度、公衆衛生を学ぶんです」とある方にお話したところ、「それは、トイレのお勉強?」と言われたこともある。そういう私も、数年前までは何も知らなかったのだから、その方の発想も理解できる。

一般的には馴染みのない公衆衛生だが、コロナ禍で取り巻く環境は大きく変わった。感染予防に関わる公衆衛生学の専門家たちがメディアなどで知られるようになったからだ。わかりやすくいうと、患者さん個人の治療を行うのは臨床医学。それに対し、公衆衛生は社会医学といわれ、集団を対象とした疾病の予防や、心身の健康維持を目的としている。感染症予防もそのひとつだ。人を健康に導くための医学には、対象が個人か集団か、主目的が治療か予防かによって異なる領域がある。

そして公衆衛生は、社会生活のなかで予防策を実践することが重要なため、役割を担うのは医療従事者だけではない。社会と関わるさまざまな専門家、つまりインテリアを専門とする私も実践者になれる。インテリアを人の健康、医療に役立てたい、と考える私にぴったりな医学領域だったのだ。

実際、大学院生のバックグラウンドはかなり幅広い。医師、看護師、保健士、歯科医、薬剤師、理学・作業療法士、獣医など。さらに留学生やジャーナリスト、元金融系出身者や青年海外協力隊の方もいる。そしてインテリデザイナー(私)も。まさに学び舎のダイバーシティといったところだ。
授業ではそれぞれが取り組む健康課題について語り合うグループワークも多く、未知の領域の課題を知り、仲間からも学ぶ。私はここで、インテリア(=生活環境)から課題解決に取り組みたいと話すのだが、多くの仲間が共感してくれることに驚いた。

「環境って確かに、すごく大事!」

話は仲間の病院や職場環境に及ぶこともあり、インテリアが役立つ場所はまだまだあると気づかされる。人の健康に関心をもつ仲間の言葉によって、新しい道は私の思いだけでなく、確信へと変わりつつある。
公衆衛生を学ぶ目的。それは、インテリアと医療をつなげ、新しいインテリアの領域をつくること。そのために私は公衆衛生という大きな海、ダイバーシティのなかで泳ぎ始めた。どの方向に向かっても素晴らしい出会いが待っている予感がしている。

2021年5月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中

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