トレンドは駅遠!「健康優良物件」という提案
2020年はさまざまな価値観が大きく変わった。今までのあたりまえはそうではなくなり、価値あるものだと考えられていたことが、今となっては昔の話になっている。自分にとって優先順位の高いものは何なのか、この半年で考えた方も多いだろう。
価値観の変化の中で、老若男女問わず大事にしたいこと。これは「健康」に他ならない。WHO憲章の定義を引用すると「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と謳われている。単に肉体的な意味だけではなく、本質はもっと広義の中にある。そうなると今や仕事もプライベートも支える「住環境」は、広義の健康を考えるうえで必要かつ不可欠な分野だと思う。
一般的に不動産市場で駅近の立地は人気も高く、高値になる要素だ。ただこの価値を「健康」という視点でみると、真逆の価値がみえてくる。健康効果の高いウォーキング。運動こそ習慣、続けることに意味があると考えると、日々の生活の中で運動量を確保する方がいい。老化予防や生活習慣病予防には、1日8000歩以上の身体運動がよいという。例えば駅から35分かかる場所なら、片道で4000歩、往復なら8000歩。自宅との行き来だけで必要運動量が確保できる。さらに、不動産的には敬遠されがちな坂道や階段のみの物件も、消費エネルギーアップには効果的な帰宅コースといえる。駅遠、坂道、階段物件は、視点を変えると魅力的な「健康優良物件」なのだ。
立地だけでなく、室内環境も「健康」という視点では価値が違ってみえる。まず近年肥満予防に、家事や日常生活など非運動性身体活動によるエネルギー消費量(=NEAT/ニート)が注目されている。日々のエネルギー消費はトレーニングのような運動だけではないのだ。キッチンでの立ち仕事、料理、室内の階段の昇り降り、何気にちょこちょこ動くことが、肥満予防につながると科学的に証明されている。肥満者は一般の人に比べ立位時間が150分も少ないそうだ。(*厚生労働省HPより)わざと使う場所と収納場所を離す、なんていう発想もエネルギー消費的にはよいかもしれない。発想を転換した住環境の工夫こそ、ステイホーム時代の健康管理に役立つはずだ。
インテリア計画は「刺激」に着目したい。滞在時間が長くなると「刺激」が負担となり身体に影響をもたらす可能性がある。テレワークで、眼精疲労や腰痛を発症された方が増えているのも一例だ。照明は刺激とならないように、レイアウト、明暗差、反射する内装にも気をつけたいし、カーテンは部屋の明るさや温熱環境に関係する。落ち着いた色使いや、カーペットのようなリラックスを促す素材使いも配慮したい。心身への刺激を和らげ、心を穏やかにする。広義の健康を支えるためには、インテリアコーディネート全体が力を発揮する場所がある。
「健康経営」に価値がある時代である。優良物件の定義も「健康」というアプローチから、新たな価値がみえてくる。
*引用元 身体活動とエネルギー代謝|厚生労働省 e-ヘルスネット
2020年10月1日号 室内装飾新聞 インテリアトレンド情報に掲載
*尾田恵のインテリアトレンドレポート/月1回連載中